椎間板ヘルニアについて

椎間板ヘルニアの発症に至る原因や椎間板の機能と構造、どのような考えで施術を行うべきなのかについて説明していきます。

椎間板ヘルニアの概要

椎間板ヘルニアについての解説です。
椎間板ヘルニアになりやすい要因や発生機序を知ることで、自分の症状への対応策を考えることができます。

椎間板ヘルニアとは、背骨(椎骨)と背骨(椎骨)の間にありクッションの役割を果たす組織である椎間板が後方に飛び出した状態のことをいいます。

椎間板ヘルニアはとても有名な疾患で、誰しもが1度は聞いたことがあるはずです。特に若い頃にスポーツなどで腰痛を発症している方は整形外科などで診断されたことがあるかもしれません。
好発部位は頸椎と腰椎です。頸椎では頸椎の5番目と6番目の間に多く、腰椎では腰椎の4番目と5番目に多くなっています。
腰椎椎間板ヘルニアは、高齢者より20~40代の男性に多いのも特徴の一つです。

頚椎椎間板ヘルニア

首、肩、腕、背中などの痛みやしびれ。
肩こりのように重だるさを感じる場合もあります。
症状が進むと、手に力が入らなくなったりボタンがかけにくくなるなどの細かい作業に支障が出てきます。
さらに脊髄まで障害されると歩行障害や排尿障害など下半身にまで影響が及びます。

  • 特定の方向に首を動かした際に悪化する痛み
  • 頚部から腕にかけての急激な痛み
  • 手や腕のしびれや感覚異常の増加
  • 手や指にかけて放散する痛みやしびれ
  • 長時間同じ姿勢でいることによる痛みやしびれ

腰椎椎間板ヘルニア

腰痛、臀部痛、大腿部や下腿部の痛みやしびれ。下肢の筋力低下・排便・排尿障害。
ヘルニアが起こっている部位により症状や筋力低下の出る場所が変わってきます。
椅子に座る姿勢や腰を曲げる動作で痛みやしびれが強くなります。

  • お尻から足にかけてしびれ・痛みがある
  • 椅子に座るなど腰を丸める状態で痛みが増す
  • 靴下を履く時に痛みが出る
  • くしゃみをすると腰が痛む
  • 重たいものを持つと腰が痛む
  • 足を触ると部分的に感覚の鈍さ、違和感がある

下の図はデルマトームといいます。デルマトームは、脊髄からでて抹消へ向かう神経の支配領域を表しています。どこがしびれるのか、どこに痛みが出ているのかを確認することで、どのレベルの神経に問題があるのかを判断します。
ただし支配領域は個人差があるということを考慮する必要があり、プラスして筋力検査や反射テスト、脊椎の可動性を確認して判断する必要があります。

※緊急性のある症状
以下の症状が出た場合は、緊急性を要し手術を検討する必要があります。
・排尿障害
・排便障害
・筋力低下などで足がほとんど動かせない場合

頻度としてはそれほど高くないといわれていますが、注意が必要です。


椎間板の構造と機能

まずは背骨と椎間板の構造と機能について解説します。
構造と機能を知ることは、病気を克服する第1歩になります。

髄核と線維輪

椎間板は背骨と背骨の間に存在しています。
椎間板には衝撃を吸収する役割と背骨の動きをスムーズにする役割があります。

椎間板は中央にある髄核を線維輪が取り囲んだ構造になっています。髄核は70~90%が水分を含んだ組織です。
それに対して線維輪は水分よりもコラーゲン繊維が豊富です。コラーゲン繊維が豊富なことは、椎間板の強度に関与します。
椎間板は、荷重負荷を受けた際に髄核の中にある水分が分散して圧を逃したり、圧が抜けた時には水分が吸収されるという働きをすることで衝撃吸収の役割をはたしています。
加齢により椎間板の水分量が減ると、結果として衝撃吸収の役割を果たせなくなってしまいます。椎間板に負荷がかかる動きなどをきっかけに、水分が減り固くなった線維輪を髄核が突き破り飛び出た状態を椎間板ヘルニアといいます。

椎体終板

椎体終板は背骨(椎体)の上下面の大部分を覆っていて、椎間板と接しています。椎間板は、この椎体終板を介して水分や栄養素などを取り入れ、老廃物を排出しています。
椎体終板は加齢の影響を受けやすく、硬くなる(石灰化する)ことで椎間板への水分供給が滞りやすくなります。
これが椎間板ヘルニアが発症する要因の一つになっています。

人体最大の無血管組織

椎間板の特徴の一つとして、人体最大の無血管組織であるということがあげられます。
血管が内部に分布していないので、治癒能力は低くなってしまいます。
椎間板は、加齢や外傷の影響を受けやすいだけでなく修復されにい組織であるということです。
他の組織に比べて加齢による機能低下が起こりやすいことが、障害が発生やすい原因の一つになっています。20~40代の若い頃から発症が多い理由はこういったところからも考えられます。

水分補給の機能

椎間板には血管分布が乏しいため、他の組織による圧力によって水分供給と栄養補給を受けています。背骨が動くことによるポンプ作用による圧力により、体液が椎間板の中に入ったり出ていったりします。
前かがみ(屈曲)した時に水分が抜けていき、反らす(伸展)時に水分が吸収されるのです。
この体液の動きの中で栄養を補給し、老廃物を出すという代謝をおこなっています。呼吸をしているような動きに似ていますね。
例えば、腰椎の動きが悪くなった場合、このポンプ作用が正常に行われなくなることで、腰椎椎間板への水分供給が減り劣化しやすくなるのです。

また、水分と栄養素、老廃物の受け渡しは、椎体にある椎体終板を通して行われます。椎体終板は加齢により石灰化しやすく、透過性も低下していきます。
そのことで、椎間板への栄養や酸素の流れが悪くなってしまう。結果、椎間板が損傷しやすい状態になり椎間板ヘルニアという現象が起こってしまいます。

構造上の問題点と日常生活で注意すること

ここでは椎間板ヘルニアに対する構造的な問題や日常生活で注意することなどを踏まえて説明していきます。

今回は腰の椎間板を主体に説明します。
腰の椎間板にかかる圧力を計測したデータがあります。立位姿勢の時に椎間板にかかる圧力を100とすると、椅子に座った状態だと140になり座っている方が椎間板にかかる圧力が高くなることが分かっています。座った状態で前かがみになるとさらに高くなります。

なぜ座った状態で椎間板内圧が高くなるのか。

シンプルに説明すると、立位よりも座位のときのほうが骨盤が後ろに倒れて(後傾)腰椎が後弯姿勢になってしまうから。
後弯とは腰を丸める方向で、いわゆる腰骨がまっすぐになった状態です。
腰を曲げた(屈曲)姿勢は椎間板の水分が抜けていくので、緩衝作用としての役割を果たせなくなっていきヘルニアのリスクが高くなるのです。長時間その姿勢が続くと、椎間板への栄養や酸素が不足してしまう状態になり椎間板が回復することができなくなってしまいます。
日常生活では、ソファーなど座面が沈み込むイスに座っていると骨盤が後傾して背骨がまっすぐになりやすくなります。
また、立っているときに腰を落とした姿勢で立つ、いわゆるフラットバック姿勢などでも背骨がまっすぐになります。
結果として腰椎が後弯していくので腰の椎間板の内圧が高まるのです。

基本的には同じ姿勢を続けないことが重要です。
少しづつ動くことで椎間板の水分が保ちやすくなりますので、仕事中でもこまめに姿勢を変える事が必要です。
重たいものを反動をつけて持ち上げたりスポーツなどで強い力が働いた時に起こる場合は若い方にも見られ、年齢を重ねると少ない力で腰椎椎間板ヘルニアになる場合もあります

骨盤後傾・腰椎後弯姿勢になる原因

椎間板ヘルニアの方が気をつけるべきは、背骨を真っ直ぐな状態(後弯)にさせないようにすることです。
背骨の生理的湾曲を維持できるかどうかがポイントになってきます。生理的湾曲とは、背骨を横から見た時に背骨全体でS時カーブになっている状態のことです。きれいなS字カーブを描くことで、背骨全体で衝撃をうまく吸収することができます。

そこで大切になるのは骨盤のポジションです。骨盤が良いポジションを取れるとS字カーブをキープしやすくなります。骨盤が後傾すると背骨はまっすぐになり(後弯)し、前傾すると反る姿勢(前弯)になるので骨盤のポジションくが大切になります。

骨盤のポジションは股関節と骨盤を動かす筋肉の影響を受けます。
股関節が屈曲すると骨盤は前傾し伸展すると後傾します。骨盤を前傾させる筋肉は腸腰筋や大腿四頭筋など前側についている筋肉で、後継させる筋肉はハムストリングスや大殿筋など後ろについている筋肉です。骨盤を後傾させる筋肉が固くなっている、もしくは前傾させる筋肉が働いていない場合に骨盤の傾きが強くなってしまいます。

回復期間について

組織を修復させるためにはある程度の期間が必要になります。

一般的には血液が豊富な組織は回復が早いといわれています。
椎間板は血管が内部に分布していないので、他の組織に比べ回復しづらい組織の1つです。
そうしたことから、本来の機能を取り戻すまでには期間を要します。

当院では3ヶ月を1つの基準としています。
すべての方が3ヶ月で回復するわけではありませんが、変化が起こるには最低でもこれぐらいの期間を必要とする場合がほとんどです。もちろん通院ペースや症状の強さ、体の状態にも影響されます。